いつもの喧騒が嘘みたいに、放課後の教室はがらんとしていていた。白いカーテンが閉められていて室内は薄暗い。 私は、父と母と教室の真ん中で横並びになって無言で座っていた。校庭から野球部の掛け声に混ざって吹奏楽部のラッパの音が聞こえてくる。 コツ…

「きみ、いま泣きそうな顔をしているよ」そう言われて拍子抜けした。そんなわけないじゃないの、どちらかというと笑いたい気持ち、そう思っていたのに、その瞬間、口元が震え出して涙が出てきた。さっきから頭の中が熱くて仕方なかった理由が分かった。 わた…

はじめて彼女に会ったのは大学の入学式でのことだった。視線が彼女を追いかけていくのを止めることができなかった。斜めに歪んだ針金のような体、襟足を刈り込んだショートカットから伸びる首、化粧っけのない白い顔。女子の出席番号に並んでいるにもかかわ…

はたちの頃に仲良くしていた友人のお姉さんは今にも消えてしまいそうな美人だった。 折れそうに細い身体の上で白い鎖骨が透き通っていた。こぼれそうに大きな目をしていた。ロングヘアーがふわりふわりと小さな頭で揺れてお姉さんをより儚くて綺麗に見せてい…