2015-01-01から1年間の記事一覧

まわる(1)

突然、夏がやってきたようだ。窓は大きく開け放たれていて、蝉の声が鳴り響いている。私は読んでいた本に栞をはさんで、部屋の真ん中にごろんと大の字に寝転んだ。目を閉じて蝉時雨に耳をすませれば、まるで私が蝉になってしまったみたいだ。たんたんたんと…

In A Notebook

夕暮れがいつの間にか終わっていた。まるで忘れ物みたいに、オレンジ色の雲が濃紺の空に浮かんでいる。夜が始まろうとしていた。君と過ごす、たぶん最後の夜が。ベットに腰掛けて、君は静かに空を見ていた。年下の美しい男の子。私はずっと、この小さな横顔…

Aのこと

高校時代の友人に、何に苦しんでいるのかは分からないが、いつも何かが苦しそうな女の子がいた。彼女は普段、美しくてリーダーシップのある女子たちのグループにいるのだが、「苦しい季節」がピークに達すると、ひとりでそっと私のそばにやってきて数週間ほ…